数十年の長きにわたって音楽を聴いてきても、衝撃を受けるほどの曲やアルバムにはなかなか巡り合えないものです。
今回はその数少ない例(笑)を紹介しましょう。
アルバム『らくガキ』は衝撃的な作品だった。
この国、この世界、この世の中(世間)に対するいら立ちに満ちているが、しゃがれ声で吐き飛ばす山口冨士夫のVocalには、それを笑い飛ばす強さも感じた。
RockというよりHARD BLUES。
「NOWHERE MAN」にまず衝撃を受けた。やるせない。
しかしラストの「皆殺しのブルース」には、そんなレベルでは語れない衝撃を受けた。
ここで書くのは憚られるような歌詞。
30年前に山口冨士夫が危惧し、ボクたちに必死に訴えようとしたことは、残念ながらどんどん現実化に向かって、世界全体が邁進しているように見える。
「ヤバイぜbaby、危ねえったらありゃしねえ ‥‥ アキレタぜbaby、もうこんな所にゃいられねえ。だけど俺たちには、逃げる場所(ところ)さえ、ありゃしねえ」
そこには立ち向かいようの無い「巨大な力」に対する何とも言えない諦念が滲む。
暗黒大陸じゃがたら 『南蛮渡来』
この人たちの怒りのパワーも凄まじい。
野生のリズム、野生のビート、野生の怒り、野生のパワー。
かき鳴らされるギターが不穏さを煽る。
腹の底に沸々と煮えたぎるマグマを言語化・音楽化した作品がこれなのだろう。
佐野元春 「ROCK'N'ROLL NIGHT」
オシャレでPOPなロックンロール・アルバム。
それが当時聴いていたこのアルバム『SOMEDAY』に対して、高校生の自分が抱いたイメージだった。
しかしアルバムの終盤に出てくるこの曲は違った。
”静謐”とも”美しい”ともいえる都会の夜に漂う「死」の匂い。
Rockの背後には、そしてRockを唄うアーティストの背後には、常に「死」の観念が横たわっている。
アーティスト本人がそれを意識していようと、していまいと。
決して遠い存在ではない「死」を想うからこそ、「生」を懸命に生き、希望を持つ。大事なことを教わった曲だった。
逆にそれがないRockは、Rockではないただの「Rockの真似事」でしかない、というある意味極端な考え方を持つようになったのも、この曲の影響が大きいかもしれない。
佐野元春 『VISITORS』
『SOMEDAY』の次作となったこのアルバム。
その洗練された最先端のビートに満ちたこのアルバムには、反面、全体に「死」の観念が、あるいは人の背後、街の奥底に横たわる「死」を想わざるを得ない何かが漂っている。
こんなことを言うと嗤われるだろうか。怒られるだろうか。
もちろん元春自身には、このアルバムにそのような意味を込めたつもりは全くなかったに違いない。
少なくとも当時の「ボク」にそう感じさせてしまうようなアルバムにしたのは、元春自身の「意思」というより、彼が当時生活し、このアルバムを作成した街、ニューヨークそのものに要因があるのかもしれない。
きらびやかな街ニューヨークの裏側に見え隠れする「死」の観念。ときにそれは現実だったりする。
優れた感性と観察力を持った元春だからこそ、ニューヨークの「その時」を切り取っただけで、図らずもその「負」の大きな部分が染み出すように浮き出てしまったのではないか。
元春自身も、意識して成った結果ではないとはいえ、このことには気が付いていたに違いない。
ラストを締める「NEW AGE」は、未来に生きる希望が散りばめられたナンバーとなっている。
上々颱風 「菜の花畑でつかまえて」
最初はふざけているのかと思った。
人を喰ったようなハモで始まるこの曲。
しかしサビに入ったところで、究極のフレーズが飛び出す。
「愛はメロディー、リズムは命 。愛に命を吹き込んで」
不覚にも泣いてしまったのだ。これを聴いた瞬間。
今でも落ち込んでいるとき、何かを信じられなくなって嫌な気持ちになっているとき、これを聴く。
これは生命への賛歌であり、生命を輝かせる「歌」への賛歌である。
「月の小舟」と並んで一番大切な曲になった。上々颱風には感謝しかない。
『上々颱風2』収録。
吉田拓郎 「今日までそして明日から」
恥ずかしながらこの曲を知った、というか聴いたのはほんの数年前のことである。
「わたしは今日まで生きてみました」
すごい歌詞に出会ったものだ。
自分のなかの「常識」のタガが一つ、簡単に外れてしまったのを感じた。
「今日まで懸命に生きてきました」とか「はいつくばって必死に生き残ってきた」とかいうよりも、よほどスゴみがある。
こんな歌詞をさらっと書けるのは、よほど人生経験を積んだあとなのかと思いきや、デビューして間もない頃の歌だと知って、またのけぞった。
何だかよくわからないが、このヒトにはかなわないと思ってしまった。
山下達郎 「BOMBER」
最初聴いたとき、日本人がこんな曲を作れるとは信じ難かった。
ヘヴィーなファンクのビートにもかかわらず、疾走感あふれるグルーヴ。
『SPACY』に収録の「SOLID SLIDER」と『GO AHEAD!』収録のこの曲があるからこそ、ワタシは達郎の絶対的信奉者になったのだ。
傑作と言われる『MELODIES』以降は、達郎はこのような曲を作ってくれなくなった。
スピッツ 「ロビンソン」
衝撃を受けたのは確かである。
しかし、ナゼ衝撃を受けたのか、ナニに衝撃を受けたのか、いまもって分からない。最初は、この曲に衝撃を受けていること自体に、戸惑いを感じたものだ。
ひとつ確かなのは、フワフワと魂が浮遊し、どこかに持っていかれる感覚。
結局はよく分からないのだが、白状すれば、これも最初に聴いたとき、あやうく涙が出そうになった。
『ハチミツ』収録。