ワタクシkagenogoriは、林業を生業にしております。
仕事場といえばほぼ山の中、森の中。
ときには死亡事故さえ発生する危険な仕事ではありますが、仕事上のストレスという点では、他の仕事よりは格段に少ないように思いマス。
何と言っても大自然のなかで仕事ができるんですから。
ただ、危険だということを除けば楽しいバラ色の仕事なのかといえば、そうでもないのデス。
昨日仕事中に悲しい、というかちょっとショッキングな出来事がありました。
いまの仕事の現場となっている山中に、立ち枯れて腐ってしまってからかなり年月が経っているであろう一本の木。
おそらくコナラの木と思われますが、そのままではいつ倒壊してしまうか分からず、大変危険な状態でした。
そこで仕事をする以上、真っ先に伐らなければならない状況。
ワタシは迷わず、その立ち枯れ木をチェンソーで伐倒しました。
ヤレヤレと思いながら倒した木をいくつかに玉切りして片付けていたところ、足元になにやら小刻みに震えている小さなモノ。
ヒメネズミです。
目をつぶって小さくボール状に丸まっています。
ピンポン玉よりも小さな生命。
体毛は生えそろっていますが、おそらくまだ子供なのでしょう。
かわいいといえば、こんなにかわいらしい生き物はいない。
それが今、ワタシの片手の上で、寒さのせいなのか恐怖のせいなのか、目を閉じたまま震えている。
間違いなく、ワタシが倒した木のウロに作られた巣から放り出されたのです。
同じく巣から放り出された親ネズミも近くにいるに違いありません。
しかしワタシたちがそこを”仕事場”としている以上、親ネズミが子供を救いにその場に姿を現すことはないでしょう。
仕方なくワタシは子ネズミを、範囲外にあるナラの木の根元に、たくさんの落ち葉にくるんで置いておきました。
もし親ネズミがそこに気付けば、子ネズミを新しい巣へと運んでいけるように。以前同じような状況で親ネズミがせっせと子ネズミたちを運んでいるのを見たことがあります。
ただし今回の場合は、親ネズミがその子ネズミの存在に気付く可能性は低いように思いました。
しかし仕事中だったワタシにはそうすることしかできないのです。
それぐらいのことしかできないのです。
しばらくするともう一匹、近くで別の子ネズミが死んでいるのを見つけました。
仕事中だったワタシは素早く別の木の根元に小さな穴を掘り、埋めました。
すまん、許せ。と言いながら。
考えるまでもなく、ワタシ達の仕事(林業)は常に生き物の殺生にかかわる仕事です。
夏場の草刈りでは、刈られた草木はすぐに回復するでしょうが、昆虫をはじめとする実に多くの生き物は、自分たちが気付かないだけで、その命や棲みかを奪っているにちがいありません。
一本の木を倒すとき。
その木の命を奪うだけではなく、その木には「生態系」といっていいほどの様々な生き物が暮らしているものです。
長い間この仕事を続けているとマヒしてしまいそうになりますが、この仕事は多くの(食料にするわけでもない)生き物の殺生にかかわることから逃れられない仕事でもあるのです。
そのような自覚があるとき、ワタシはいつも一つの言葉を心の中でつぶやきながら仕事をしています。
「すまん、ゆるせ」
草木を刈るとき。
一本の木を伐るとき。
一日中この言葉を心の中で呟きながら仕事するときもあります。
命や棲みかを奪われる生き物たちにとって、「すまん、ゆるせ」と言ったからといって、なんの慰めにもならないことは百も承知。
しかしワタシにはそうすることぐらいしかできない。
このような考えは、同業者からすれば「甘い」の一言なのかもしれませんが。
しかし、生き物の殺生にかかわっているという自覚だけは持ちつづけていたい。