Good Old Music 、Fantastic高校野球

林業家kagenogoriが70's~80'sの珠玉の音楽、そして高校野球、etc.についてのたまうブログ

珠玉の70's-80's Japanese Pops & Rock(13) 『風立ちぬ』~大瀧詠一✖松本隆が紡ぐファンタジー~

 初期(~’83年頃まで)の松田聖子は一年に2作、すなわち半年に一回、季節感を大切にした良質のアルバムを世に送っておった。

 春夏カラーのアルバムと秋冬カラーのアルバム。

 春夏の傑作がこれまで何度か紹介した『Pineapple』なら、秋冬の傑作は間違いなく風立ちぬである。

風立ちぬ

 まぎれもない大傑作。

 それもそのはず。

 前半5曲(要するに当時のA面)の作曲と作詞はすべて大瀧詠一

松本隆の黄金コンビの手に依っているのだから。 

風立ちぬ

風立ちぬ

 

  大瀧✕松本のコンビは、大瀧自身のソロ・アルバムはもちろん、謡曲などにも優れた楽曲を提供するなど、作品数こそそれほど多くはないものの、当時のJapanese Popsにおいてはトップ・ソングライティング・チームだった。

 大人の恋愛をテーマにした曲を得意としつつも、大瀧独特のメロディの影響もあり、どことなくファンタジックな印象を漂わせる曲が多かったが、時には両者のファンタジー志向*1をそのまま形にしたような曲もいくつか作っている。 

 

 松田聖子4作目となる’81年秋に発売された風立ちぬにおいて、このソングライティング・チームはこのアルバムA面をファンタジー一色に染め上げ、それまで「謡曲」の王道を行きながらも、「Pops」シンガーとして覚醒しそうで覚醒し切らなかった松田聖子の新たな魅力と可能性を最大限に引きずり出してしまった。 

風立ちぬ

風立ちぬ

 

  一曲目の冬の妖精に始まり、一千一秒物語」「いちご畑でつかまえてといった、タイトルを見ただけその世界に没入できそうなロディックなPopナンバーをそろえ、受けて立つ(?)松田聖子もその天才的な感性で完璧なまでに、ファンタジー溢れる世界観を表現し切っている。

 そしてA面ラスト、10代の少女から大人への”新たな旅立ち”を、自ら見つめる女性の想いを綴った名曲、風立ちぬへとバトンが渡る。

 

 大瀧自身のソロ・アルバム『EACH  TIME』に収録されたファンタジー「魔法の瞳」には”~飛べなくなったピーターパンに 妖精の粉 振りまいておくれ”という名フレーズがある。 

EACH TIME 20th Annniversary Edition
 

  ”大人”という新しい世界に足を踏み入れれば、得る物ももちろん多いが、失ってしまう物も、また実に多い。

 大瀧詠一は、そのような色んなものを失ってしまった”自分”に「妖精の粉をふりまいておくれ」と歌ったのだ。

 

 大人の女性への旅立ちの曲風立ちぬに至るまでのファンタジー溢れる曲も、まさに”星屑のようにキラキラ光る妖精の粉”なのだろう。 

 

 それは、”大人”になってしまった人に、そしてこれから”大人”になろうとしている少年や少女に送られた、「いつでも帰って来られる場所があるんだよ」とそっと教えてくれる素敵なプレゼントなのである。

 

 

*1:大瀧については言うに及ばないが、松本ものちに、最も思い通りにできた仕事として南佳孝のファンタジックなコンセプト・アルバム『冒険王』を挙げている。