1982年というのは、後の世までも愛される傑作、名盤が連打のごとく発表され、日本のRock、Pops史上において画期的な年でした。
その中でも代表的な名盤を発売順に見てみましょう。(発売日が同じものはアーティスト名順)
山下達郎 『FOR YOU』1月21日発売
いきなり日本の音楽史上に残る大傑作が1月に出てしまった82年。
一曲目、達郎のカッティング・ギターで始まる「SPARKLE」、爽やかな夏の早朝に聴きたい「MUSIC BOOK」「MORNING GLORY」、強い日差しで陽炎が立つ南国のビーチを思わせる「LOVELAND,ISLAND」といった夏向きの曲のきらびやかさに目を(耳を)奪われる一方で、意外にSoul Musicの「濃度」の高さが素晴らしく、聴き飽きることがない。
「奇跡の年」にふさわしい幕開け。
大瀧詠一・佐野元春・杉真理 『ナイアガラ・トライアングルvol.2』3月21日発売
若い二人にとってまさに機が熟した時期に、巨匠大瀧詠一に見いだされ、82年にナイアガラ・トライアングルvol.2として自らの存在を世に問うた。
匠の技で余裕の名曲を繰り出す巨匠に対し、高い技術と初々しいエネルギーをほとばしらせる佐野と杉。この作品が当時、もろ手を挙げて世に受け入れられ、大ヒットしたのもごく当然のこと。
この時でしか収穫しえない、したたる果実のようなアルバム。
暗黒大陸じゃがたら 『南蛮渡来』5月発売
これを手に入れたのはCD化されたあとだったから、インディーズでLPが発売されてから10年以上も経たときだった。
やっと、手に入れた。そのヨロコビで興奮しつつ、CDプレーヤーにかけたのだが……。
最初のうちはついていくのがやっと。ワケガワカラナイ。そのくせ、全身の血が逆流するような不思議な感覚だったのを、今でもかろうじて憶えている。
それからまた数十年。JAGATARAの音楽は思い出したように、ときどき聴いてきたが、同時にRock、Jazz、Blues、民族音楽等を聴き込んできた自分が、いま改めてこのCDを聴いて、いまだに驚愕してしまうということに驚愕する。
「ごった煮」だの「坩堝(るつぼ)」だのと形容されてきたけど、まさにそうとしか言いようがないのは確か。言葉で表現・説明しようとしても陳腐になるばかりで途方に暮れる。そういったものを一切拒否しているのだ。この作品は。ただ、ただ、「ごった煮」の渦に呑み込まれるばかり。
江戸アケミのVocalの凄みについては何をかいわんやだが、このサウンド、演奏力もただごとではない。バンドを構成する全員が天才でなければ成り立たない。彼らはこんな言い方されるのを嫌うだろうけれど。
現在(いま)聴いてこそ価値があるメッセージ性(言葉だけではない)と、サウンドのレベルの高さ。いまの若い人にこそ聴いて欲しい。
そして、お隣の富山県出身のOTOの復活、というか新作を待ち望む。余計なお世話とは知りつつも。
EPO 『う・わ・さ・に・な・り・た・い』5月21日発売
Popなメロディを書かせたら随一のEPO。早くからその実力を認められていたこの人が、一気にスターダムへとのし上がったのがこのアルバム。
音作りも含めてすべてが一流のこの作品に、ソウル・ミュージックのテイストを感じてしまうのはワタシだけではないと思うのだが。
佐野元春 『SOMEDAY』5月21日発売
ナイアガラ・トライアングルvol.2で一気にその名を知られることになった元春が、ここぞとばかりに一世一代の勝負をかけた(と思われる、多分)アルバム。
直前の4月25日に”Brother”伊藤銀次が『BABY BLUE』で復活の狼煙(のろし)を挙げたのも、展開としては理想的だった。
Popなロックン・ロール、都会の静かな夜を思わせるシルキーなバラード、シリアスな長編。
そしてメッセージ性と文学性を両立させた、力量の高さをうかがわせる歌”詩”。
すべてにおいてハイレベルなこの作品が、いたるところで絶賛されたのは当然であるが、彼の「冒険」は実はここからがスタートだったのだ。
CASIOPEA 『Mint Jams』 5月21日発売
ここでちょっと毛色は変わるが、和製フュージョンの名盤を。
おそらくこれはカシオペアだけではなく、日本のフュージョンの最高傑作と思われる。ただでさえ技術の高いフュージョン界の中でも、最高クラスのエキスパート4人が生み出した奇跡と幸福の一枚。
各自、超絶技巧を披露しながらも、メリハリの効いた透明感溢れるサウンドを実現しているのは、技術の確かさと高い志のなせるわざ。
メロディックかつキャッチ―(死語?)な曲と、ギター(野呂一生)・キーボード(向谷実)の派手な音色に耳を奪われがちだが、「名作のカゲに優れたリズム・セクションあり」を確信させるベース(櫻井哲夫)・ドラム(神保彰)のプレイにも注目。
松田聖子 『Pineapple』5月21日発売
歌謡Popsの最高到達点。
やはり大傑作だった前作『風立ちぬ』のいい流れを、さらに発展させ、結晶化したのがこれである。
先入観にとらわれず、ただ聴いてみて欲しい。
松任谷由実 『Pearl Pierce』6月21日発売
これも、やはり大傑作だった前作『昨晩お会いしましょう』のいい流れを引き継いだ名品。
曲作りの上手さは当然として、このアルバムには何度でも繰り返し聴きたくなる不思議な魅力がある。
聴いた後の清々しさ、透明感は絶品。
- アーティスト: 松任谷由実
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 1999/02/24
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 25回
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佐藤博 『awakening』6月25日発売
鍵盤の匠、佐藤博の最高傑作。
物憂い夏の午後にひとり聴きたくなる、レイジーかつゴージャスなメロディと音作り。
これぞリゾート。
矢野顕子 『愛がなくちゃね』6月25日発売
Japanese Popsで一番の天才は?と聞かれたら(まあ、じつにツマラナイ質問なんだが)、迷った末にこの人を挙げる。個人的には。
故に、かどうかはともかく、この人の作品には傑作しかない。しかもデビュー当初から(デビュー作がまたとてつもないのだが、それはまた別の機会に)現在に至るまで、流行りすたりはまったく意に介さず、ひたすらのアッコちゃんワールドを突き進んでいる。
その傑作群(よく考えるとスゴイ言葉)の中でも特にスペシャルな作品の一つがこれ。
楽曲の良さは言わずもがな。YMOとJAPANのメンバーを従えた(?)「堅牢」とでも呼びたくなるサウンド、確かなリズム。
高校生だったワタシの当時の個人的な感想を言わせてもらえば、「テクノ・サウンドって意外とゴージャスなんだ」と気付かせてくれた一枚。
TULIP 『2222年ピクニック』7月1日発売
個人的にはチューリップの最高傑作ではないかと思っている。
前作『THE 10th ODDYSSEY』の流れをさらに発展させ、「星」をテーマにした美しい曲が並ぶ。
ラストの長尺バラード「アルバトロス」の美しさと壮大さは圧巻。
矢沢永吉 『PM9』7月10日発売
個人的に矢沢永吉のアルバムで唯一好きな作品。
他の作品にはあまり感じられない(スミマセン‥‥)グルーヴがある。
やはり音作り、というかミックスの賜物なんだろうか。
ラインナップもまさに「旬」といった好曲、名曲がならぶ。
サザンオールスターズ 『NUDE MAN』7月21日発売
サザンでは個人的に一番気に入っているアルバム。
水準の高さは折り紙付き。
ロックンロールあり、ブルースあり、レゲエっぽい(笑)曲あり、美しすぎるバラードもあり、といつものごとくバラエティに富んだ内容だが、全体的にブルースのようなザラついた手触りで、それがまたいい。
一曲目に「超」の付く名曲「黒のクレール」があることで、すでに大傑作と言ってもいいくらい。
これを含めた前半4曲が坂本龍一教授のアレンジ、あとがフランス人のアレンジ(フランス録音)だが、どれも芸術性の高い作品となっている。
ただ、個人的には後半の曲も教授のアレンジで聴いてみたかった。
吉田美奈子 『Light'n Up』9月21日発売
「ファンクの女王」吉田美奈子の最高傑作と、個人的には思っている。
次に紹介する南佳孝『Seventh Avenue South』とはまた違ったニューヨークの夜を想起させる、煌めくような豊潤なサウンド。
それもそのはず、デイヴィッド・サンボーン(アルトサックス)、ブレッカー兄弟(ランディ・ブレッカー:トランペット&フリューゲルホーン、マイケル・ブレッカー:テナーサックス)まで参加してるという贅沢ぶり。
それが生きるのも、彼女の優れた楽曲とVocalがあってこそ。
南佳孝 『Seventh Avenue South』9月22日発売 『12LinesⅡ』2月5日発売
この年の佳孝の勢いはすごかった。
前年の「スローなブギにしてくれ」の大ヒットの勢いそのままに、まず2月にベスト盤『12LINESⅡ』を発表。
A面をUrban-Side、B面をSea-Sideとして、それぞれ街(都会)モノ、海(夏)モノの名曲を配するというニクい構成。
ベスト盤だが、名盤といっていい。現在廃盤となっているのがとても信じられない。
そして9月には満を持して超傑作『Seventh Avenue South』を発表。
デイヴィッド・サンボーンの「泣き」のアルトで幕が開けるこの作品。ニューヨークの煌めく摩天楼、うらぶれた路地、たまに星月を見に郊外へ。
縦横無尽に舞台を変えつつも、変わらないのは「男」のハードボイルドな内面。
それを本場ニューヨークのジャズの手練れ達が、COOLにサポートするのだから、たまらない。
永遠のマスターピースとは、まさにこれのことを指すのだろう。
ムーンライダーズ 『青空百景』9月25日発売
ムーンライダーズの作品は、暗号的にムズカシイ、というかよく分からない(笑)作品が多いのだが、この『青空百景』はそんなこと気にせずとも良い。
ただ秋の青空の下、アタマを空っぽにして(まあ、普段から空っぽなんだが)聴きたい作品。クヨクヨ考えるのがバカらしくなるというスグレモノである。
一応、念のために言っておくが、Pops史に残る大傑作である。
『マニア・マニエラ』12月15日発売
『青空百景』以上の傑作と言われるのがこれ。
こちらは逆にアタマを空っぽにしていては聴けない作品だが、意外とスンナリ楽しめる一枚。
大勢で行進しているような陶酔感も味わえる。コワイことだけど。
いつの間にか口ずさんでいたりするのが、なぜかクヤシイ。
伊藤銀次 『Sugar Boy Blues』9月25日発売
このアルバムについての評論家やライター諸氏の高い評価というのを目にしたことがまったく無いが、個人的には次作『スターダスト・シンフォニー』と並んで、銀次のベスト。
STARDUST SYMPHONEY’65-’83(紙ジャケット仕様)
- アーティスト: 伊藤銀次
- 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
- 発売日: 2007/10/24
- メディア: CD
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『Sugar Boy Blues』では確かに高音域での銀次のVocalにやや拙さを感じてしまうが、そんなことはどうでもよくなるくらい圧倒的にセンスの高いPop&Rock'n'Rollの連続で、息つく暇もないほどの宝箱。
ビートがはじける「Night Pretenders」「シンデレラリバティなんて恐くない」「恋のソルジャー」「フールズ・パラダイス」、どうしようもなくノスタルジーに包まれてしまう「真冬のコパトーン」「Dear Yesterday」「Hang On To Your Dream」など必聴ナンバーが目白押し。
胸に「過去」を抱えつつ、前(未来)を歩いて行く。それが銀次の唄。